Stuck on Dating

ボウルビィの愛着理論は、既読が続く夜にも動いている

編集部 · 公開2026-06-23

夜の部屋で、返信の途絶えたスマートフォンを手に指を止めて画面を見つめる20代の女性。愛着の仕組みがいまも働いている瞬間を表す

ボウルビィの愛着理論、と聞くと、ずいぶん昔の話に思えます。半世紀以上前、母と子の研究から始まった理論。古典として一度おさえておきたい――そういう気持ちで検索した人が、たぶん多いはずです。

でも、この理論が本当に説明しているのは、過去の親子ではありません。今のあなたが、誰かとの間で感じている、あの説明のつかない落ち着かなさのほうです。

だからこの記事は、「何を主張した理論か」を解説しながら、それを歴史の知識としてではなく、今の自分の関係を読むための土台として手渡すことを目指します。

なぜ相手によって反応が変わるのか

送ったメッセージに、返事が来ない。一日が過ぎる。「あれ、なんでこんなに気になってるんだろう」と自分でも思う。深刻というほどではない。それでも、妙に落ち着かない。しかも面白いのは、相手によってまるで違うことです。すごく返信が遅くても平気な相手もいれば、たった一日空いただけでそわそわしてしまう相手もいる。同じ自分なのに、相手次第でこんなに反応が変わる。これは相性の問題なのか、それとも自分の中に何かパターンがあるのか。

私はここで、その「相性か、自分のパターンか」という分け方そのものを疑ってみたいのです。手がかりになるのが、愛着理論を築いた心理学者ボウルビィの見方です。ボウルビィは、まさにそのどちらか、という分け方をしませんでした。彼が見ていたのは、たとえば一日返事が来ない、という出来事そのものではありません。出来事は、ただの出来事でしかない。問題は、その沈黙を自分がどう「読む」か、なのです。

ボウルビィの見立てでは、人は誰でも、小さい頃から何度も実験を重ねてきています。不安になったとき、声をあげたら来てもらえたのか、それとも結局ひとりだったのか。その積み重ねのなかで、心の中にひとつの予測ができあがっていく。「困ったとき、人はどう出るか」という、自分なりの見込みです。ボウルビィはそれを内的作業モデルと呼びました。難しい言葉ですが、要するに、沈黙を前にしたときに自動で立ち上がってくる、自分用の読み方のクセ、くらいに思ってもらえればいい。

だから、相手によって反応が変わるのは、矛盾でも気まぐれでもありません。相手ごとに、自分の中のその「読み方」のどれが起動するかが違っているだけなのです。返信が遅くても平気な相手というのは、たぶん「この人は戻ってくる」という見込みが揺らがない相手なのでしょう。逆にそわそわする相手は、その見込みを、まだ確かめきれていない。つまり、相性か自分かではなく――その相手との間で、自分のどの読み方が呼び出されるか。既読が二日続いた夜に手が止まる、その瞬間の正体は、たぶんそこにあります。

この仕組みは、大人になっても動き続けています。空港で大切な人を見送る場面を観察した研究では、大人がとる近づき方・離れ方の行動が、子どもで見られるものと似た原理で組織されている、と報告されています (参考: 1, 2)。近接を求める、安全な避難所として相手を使う、そこを足場にまた離れていく――その骨組みが、年齢を越えて共通している。「読み方のクセが相手ごとに呼び出される」という見立ては、ただの印象論ではなく、行動の観察ともちゃんと噛み合っているのです。

その読み方は一生固まったままなのか

返信が遅くても平気な相手は「この人は戻ってくる」という見込みが揺らがない相手だ、とさきほど書きました。根拠もないのに、なぜかそう思えてしまう。では、その見込み――読み方のクセは、いったん身についたら、もう一生そのままなのでしょうか。

小さい頃の積み重ねでできた、と聞くと、もう変えようがない気もします。でも、同じ相手でも、付き合っていくうちにそわそわしなくなったりする。あれは、見込みのほうが書き換わっている、ということなのでしょうか。

書き換わります。固まりきってはいない。ただ、「いくらでも変わる」というのも違っていて、その中間くらいに思ってもらうのが正確です。あの読み方の見込みは、けっこう粘り強くて、ちょっとやそっとの出来事では揺れません。だからこそ「クセ」と呼べるわけで、日々の小さな当たり外れで毎回上書きされていたら、予測としてもう役に立ちません。土台としてある程度どっしりしているのは、むしろ機能なのです。

そのうえで、書き換わるときは書き換わる。とくに、関係そのものが壊れたとか、大事な人を失ったとか、そういう重たい出来事と結びついたときに、見込みのほうが動くことがあります。いいことが少しずつ積み重なって、というより、揺さぶられて、というかたちで変わりやすい。

ただ、ここが面白いところで、そういう出来事のあとでも、しばらくすると元の軌道に戻っていくことが少なくないようです。一時的にぐらついても、また元の読み方に帰ってくる。揺さぶられたぶんが、そのまま定着するとは限らないのです。

だから、同じ相手でそわそわしなくなったというのは、たぶん見込みそのものが永久に書き換わったというより、その相手との間で「この人は戻ってくる」という新しい証拠が積み上がって、別の読み方のほうが起動するようになった、そちらに近いのだと思います。クセが消えたわけではなく、呼び出されるものが変わった。

それと、もうひとつ正直に言っておきたいことがあります。小さい頃の型がそのまま大人まで一直線に続く、とは限りません。とくに、その間がしんどい環境だった人ほど、子どもの頃の型と今とがつながっていない、ということが起きます。だから「小さい頃に決まったから一生もの」というのは、半分本当で、半分は思い込みなのです。愛着のあり方が時間とともにどう動くのかは、愛着スタイルは変えられるのかでもう少し詳しく見ています。

この「土台はあるが書き換わる」という感じは、同じ人を長く追いかける縦断研究の知見ともよく合います。乳児期の型は青年期・成人期の愛着のあり方を中程度に予測する、という報告がある一方で、その安定性は環境によってかなり差がつきます。安定した家庭で育った層では連続性が見えるのに、貧困や虐待歴のある高リスクの層では、子どもの頃と大人とのつながりがはっきりしない、という報告が複数あります (参考: 3, 4)。そして変化の起き方もランダムではなく、関係の破綻や逆境といった否定的な出来事が、不安定化と結びつきやすいことが繰り返し示されています (参考: 4, 5)。揺さぶられて変わる、という見立ては、わりと裏づけのある描き方なのです。

乳児の研究を大人の恋愛に当てていいのか

赤ちゃんの研究を、そのまま大人の恋愛に貼り付けていいのか。そう引っかかる人もいるかもしれません。子ども時代に見つかったものを大人に当てはめるのは、飛躍ではないか、と。

その引っかかりは、すごくまっとうだと思います。ただ、ボウルビィが本当に見ていたものを、少しだけずらして捉えてみてほしいんです。彼が見つけたのは、「子どもが母親に依存する」という、子ども時代に限った特殊な現象ではありませんでした。もっと素っ気ない、人間という生き物の仕組みそのものです。怖い、心細い、ひとりだ。そう感じた瞬間に、人は特定の誰かに近づこうとする。突き詰めれば、その一点でした。

子どもがそれを一番むき出しの形で見せるから、最初に観察されたのが、たまたま親子だった。順番としては、そういうことなんです。子ども専用の現象を、あとから大人に流用したわけではありません。最初から「人はこう動く」という話で、その一番わかりやすい現場が、たまたま赤ちゃんとお母さんだったというだけのことです。ちなみに、ボウルビィが描いたこの枠組みを、子どもの行動から実際に見分けられる形にしていったのがエインズワースです。ボウルビィが理屈を立て、エインズワースがそれを目に見えるものにした――この二人の役割の違いはボウルビィとエインズワースは何をしたのかで触れています。

そして大事なのは、その仕組みが、大人になっても消えないということです。不安が刺激された場面では、大人でも、自分では気づかないうちに、愛着に関わる反応が立ち上がってくる。意識して呼び出すのではありません。脅威を感じた瞬間に、考えるより先に、特定の誰かのほうへ意識が向くのです。

この「ひとりでに動く」という部分は、実験のなかでも捉えられています。安全な土台がしっかりしている人ほど、愛着に関わる情報を深く、そして自動的に処理していて、その処理は数日たっても残るし、頭が疲れている状況でも崩れにくい。意識的な努力でやっているのではなく、自動で走っている、という形で観察されているわけです (参考: 6, 7)。

だから、既読が二日続いた夜に手が止まる、あの感じは、子どもっぽさが残っているとか、未熟だとか、そういう話ではありません。生涯ずっと働き続ける仕組みが、ちゃんと現役で動いているだけなんです。

仕組みを知ると関係の何が変わるのか

仕組みがあるのはわかった。でも、手が止まる夜に「これは愛着システムが動いているんだな」と思ったところで、結局そわそわは止まらない。理屈を知っていることが、現場でどう役に立つのか。

そこをはっきりさせておきたいのです。結論から言えば、仕組みを知ったからといって、そわそわは消えません。「これは愛着システムだな」と唱えれば手の震えが止まる、という話ではない。それを期待すると、たいてい裏切られます。では何が変わるのか。消えるかわりに、読めるようになるのです。

そのために、ひとつ知っておいてほしいことがあります。脅威を感じたときの反応は、人によって出方の型が違う、ということです。不安が強く出る人は、たとえるなら危険を早く見つける見張り役のようになります。既読がついた、返信が遅い、その小さな兆候をいち早く拾って、「近づかなきゃ」と過剰に動いてしまう。連絡を重ねたり、何度もスマホを開いたり。一方、距離を取るタイプの人は、近づきたい気持ちのほうを、本人も気づかないうちに下げてしまう。返信をわざと後回しにしたり、別のことで気を紛らわせたり。そして、「べつに気にしてない」という顔をする。安定型・不安型・回避型という愛着スタイルそのものの全体像は、愛着スタイルとは何かで整理しています。

ここが大事なのですが、この二つは正反対に見えて、実は同じ仕組みなのです。脅威を感じた、特定の誰かのことが頭から離れない――そこまでは一緒で、ただ、出力の向きが違うだけ。片方は近づく方へ、片方は離れる方へ振れている。だから、そわそわして動きすぎてしまう人も、なんでもないふりで黙ってしまう人も、根っこで起きていることは変わらないのです。これは研究のなかで描かれている見方にも近いものです。脅威に向き合うときに優先的に立ち上がる構えが、型によって違う――敏感に兆候を拾って警戒を強める身構えもあれば、逆に距離を取る身構えもある、というように分かれることが示されています (参考: 6, 7)。出力の方向は逆でも、根にある「脅威→特定の誰か」は共通している、という捉え方です。

そう考えると、現場で使えるのは「そわそわを消す」ことではなく、「いま、自分のどの読み方が起動しているか」を、一拍おいて名指せることなのです。手が止まったあの瞬間を、「またやってる、自分はダメだ」と自分を責める材料にするのではなく、「ああ、見張り役が作動したな」という合図として読む。ただそれだけで、ずいぶん違う。反応そのものは止まらなくても、その反応に飲み込まれる度合いが変わります。反応のただ中にいるのか、その反応を少し離れたところから見ているのか、くらいの差です。このレンズがいちばん効くのは、自分でも理由がよくわからないまま気持ちが大きく動いてしまうときや、特定の相手とのあいだで同じ引っかかりが何度も出てくるときです。

窓辺の明るい光の中でスマートフォンを少し離して置き、一息ついて自分の反応を眺める女性。責める材料ではなく読む材料に変える姿勢を表す

もうひとつ、これは少し別の角度からの話なのですが――その反応は、自分のことだけでなく、相手との関係についての情報でもあります。安心できる相手とのあいだでは、困ったときに「助けて」と言える、相手が困っていたら助ける、そのやり取りがわりと自然に回る。逆に、何かあるたびに自分が引きこもってしまうとか、相手をやけに否定的に見てしまうとか、そういう動きが特定の相手との間で繰り返し出るなら――それは、あなたの性格に欠陥があるという話ではない。その関係のなかで、あなたのどの読み方が呼び出されているか、の手がかりなのです。「この人の前では、自分の見張り役がよく出るな」というように。それが分かると、相手を責めるのでも自分を責めるのでもなく、もう少し別の打ち手が考えられるようになります。

実際の場面でも、こうした差は行動として現れます。ストレスがかかったときに助けを求める・助けるのやり取りが、安全な人ほど噛み合いやすい。葛藤の場面では、距離を取る構えの人ほど引きこもったり、相手を否定的に見たりしやすい。こうした行動の差は、いくつかの観察研究で報告されています (参考: 8, 9)。さらに、安全な土台を持つ人のほうが、恋愛関係での満足や支え合いがうまく回りやすい、という関連も報告されています (参考: 10)。ただしこれは「安全な人は幸せ、そうでない人は不幸」という決めつけではなく、あくまで傾向の話です。

ただ、ひとつだけ釘を刺しておきたいことがあります。これは、自分の動きに気づくための枠なのです。相手を見て「あの人は回避型だ」「不安型だ」とラベルを貼って分類する道具ではない。それをやり出すと、たちまち人を裁く物差しに化けてしまいます。あくまで、自分の手が止まった夜に、その瞬間を責める材料ではなく読む材料に変えるための――そういう使い方なのです。

そして、これは大切なことなのですが。大きな喪失や、つらい出来事のあとで気持ちがひどく揺れて、自分ひとりではどうにも抱えきれないと感じるときは、こうした枠ひとつで乗り切ろうとしなくていい。専門家を頼るのは、弱さではありません。読み方を知ることと、必要なときに人の手を借りることは、矛盾しないのです。

最後に、ひとつ。愛着に関わる反応は、関係が始まる前の「気になる人ができた」段階から、もう動き出していると言われています (参考: 11)。だから新しい相手の予定が見えなくなった途端にそわそわするのも、仕組みが現役で働いていることの表れと考えると、筋が通ります。

参考文献

  1. R. Chris Fraley, Keith E. Davis(1997) Attachment formation and transfer in young adults’close friendships and romantic relationships. Personal Relationships. https://doi.org/10.1111/j.1475-6811.1997.tb00135.x
  2. R. Chris Fraley, Phillip R. Shaver(1998) Airport separations: A naturalistic study of adult attachment dynamics in separating couples. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.5.1198
  3. R. Chris Fraley(2002) Attachment Stability From Infancy to Adulthood: Meta-Analysis and Dynamic Modeling of Developmental Mechanisms. Personality and Social Psychology Review. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr0602_03
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  1. Claire E. Hamilton(2000) Continuity and Discontinuity of Attachment from Infancy through Adolescence. Child Development. https://doi.org/10.1111/1467-8624.00177
  2. Everett Waters, Claire E. Hamilton, Nancy S. Weinfield(2000) The Stability of Attachment Security from Infancy to Adolescence and Early Adulthood: General Introduction. Child Development. https://doi.org/10.1111/1467-8624.00175
  3. Tsachi Ein‐Dor, Mario Mikulincer, Phillip R. Shaver(2011) Attachment insecurities and the processing of threat-related information: Studying the schemas involved in insecure people's coping strategies. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/a0022503
  4. Mario Mikulincer, Phillip R. Shaver, Yael Sapir-Lavid, Neta Avihou-Kanza(2009) What’s inside the minds of securely and insecurely attached people? The secure-base script and its associations with attachment-style dimensions. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/a0015649
  5. Jeffry A. Simpson, W. Steven Rholes, Julia S. Nelligan(1992) Support seeking and support giving within couples in an anxiety-provoking situation: The role of attachment styles. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.62.3.434
  6. Jeffry A. Simpson, W. Steven Rholes, Dede Phillips(1996) Conflict in close relationships: An attachment perspective. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037//0022-3514.71.5.899
  7. Nancy L. Collins, Stephen J. Read(1990) Adult attachment, working models, and relationship quality in dating couples. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.58.4.644
  8. Paul W. Eastwick, Eli J. Finkel(2008) The attachment system in fledgling relationships: An activating role for attachment anxiety. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/0022-3514.95.3.628